2024年PWが販売を開始した オステオスペルマム キャンディフィールズの登場に、多くの方が胸を躍らせたのではないでしょうか。このセンセーショナルな花色のオステオスペルマムを開発したのは、なんと日本人の育種家です。

今回は、その育種家である菅野さんに、開発にかけた想いを聞く機会をいただきました。

開発へ至った想い

オステオスペルマムとは

オステオスペルマムとは、南アフリカを原産とするキク科の多年草で、別名:アフリカン デイジーとも呼ばれています。美しい花弁の配列を成し、春から初夏にかけて長く花を咲かせます。耐寒性もあり、関東以西の低地であれば屋外で冬越し可能であることも魅力です。

オステオスペルマムと日本の歴史

オステオスペルマム

日本で初めて国際園芸博覧会が開催された1990年の数年後、日本で画期的なオステオスペルマムが開発され、世界中から大きな注目を集めました。オステオスペルマムは、本来夕方や曇雨天時に花を閉じる性質を持っていますが、終日咲き続ける画期的なオステオスペルマムが誕生したのです。

その後も、日本におけるオステオスペルマムの育種技術は飛躍的に進みました。かつては、紫、白、ピンク色といった花色が主流でしたが、黄色やオレンジ色などのカラーバリエーションが増え、さらには花形も八重咲き花びらがスプーンのような形のものなど毎年のように新しい品種が誕生し、全国のホームセンターや園芸店を賑わせていました。

オステオスペルマムとの出会い

2008年の春、菅野さんは、親しい生産者の方から日本で育種された歴史あるオステオスペルマムを6~7品種をいただきました。それがきっかけで、当時流通していた新しいオステオスペルマムと比較してみようと、国内外を問わず可能な限り十種類のオステオスペルマムを自宅の庭に並べて観察を始めることにしました。

オステオスペルマム誕生秘話

毎日自宅の庭で眺めているうちに、「国内で育成された品種は、古いものであっても花もち・花数の多さの点で海外で開発された品種よりも優っている」点に驚かされました。日本のオステオスペルマムの育種力は世界でも引けを取らないことを再認識したのです。

花もちとは、花がきれいに咲き続ける度合いです。花もちが良い植物ほど、長くきれいな状態を楽しむことができます。

また、それと同時に感じるようになったのが「自分が魅力的と思える花色を持ったオステオスペルマムが1つもない」ということでした。

ここで「残念」で終わらないのが、菅野さんのすごい所。オステオスペルマムには、日本での育種においてまだまだ可能性を秘めていると感じ、「それならば自分で満足のいく品種を作らなければ!」という使命感のような思いが沸いてきたのです。これまでにないおしゃれで美しい色を持ち、多くの花を咲かせ、長い期間咲き続けるそんなオステオスペルマムを作り上げる決意を強く抱き、開発に向けた第一歩を踏み出しました。

しかし、それは同時に途方もなく長く険しい道のりの始まりでもありました。

開発の道のり

2008年 育種スタート

菅野さんは、庭先に並んだオステオスペルマムの交配を始めました。まずは国内品種同士のみをそれぞれ掛け合わせ、2008年の6月中旬の梅雨の時期に初めて種が採れました。連日の激しい雨が続き、種が腐ってしまうのではないかと心配しましたが、幸いにも100粒以上の種を採ることができました。その後、秋の9月下旬に採れた種をまいて発芽させ、新しい品種を作り出す第一歩を踏み出しました。この年は、育種への新たなスタートを切る重要な年となりました。

そこから約2年間にわたって、交配株から種を採取し、播種、育苗、そして実生苗から開花までの作業を繰り返し行い、徐々に交配に使える材料が増えていきました。

長年もがき苦しんだ育種開発

菅野さんは、オステオスペルマムの育種に情熱を注ぎながらも、数々の苦難に直面しました。

育種開発

新しい品種を作り出すには、まず種が取れなくては開発が進みません。オステオスペルマムは交配をしても、種を多く採ることが難しい植物でした。特に、花色が良い、開花性が良い、開花期間が長い等の良い形質を持った系統は、非常に種が取りにくい傾向がありました。また種が取れても発芽しづらく、開発はなかなか進まない状況が長年続きました。すでに4~5年の歳月が流れており、もがき苦しんだ時期でした。

小さな希望

育種開発ストーリー

そんな中でも、その後のキャンディフィールズに繋がる忘れることができない貴重な系統を生み出すことに成功しました。この系統はやや薄めの黄色でしたが、咲き進んでも色あせせず、一つの花の寿命が他の品種に比べて抜群に長く開花盛期時は株が花で埋め尽くされるほどでした。この優れた性質を他の色にも取り入れたいと色々な系統と黄色種に交配を重ねていきました。

眠れない日々

しかし、いくら交配を重ねても、この黄色の品種にはほとんど種が付きませんでした。異なる組み合わせを試みることで、相手側の品種には多少の種ができるようになりましたが、問題の黄色い品種には依然として種ができませんでした。雌しべは存在し、花粉も出ているのに、なぜか種が形成されません。日々、布団の中でさえも「どうしたら種が付くようになるか」と考えたものです。

大きな転機の到来

しかし、そんな困難な中でも菅野さんは諦めることなく、常に新たな方法やアプローチを模索し続けました。

ある日改めて初心に戻り、花をじっくりと観察してみようと思い立ちました。そしてその黄色種の花の雌しべの部分を注意深く調べてみると、驚くべきことに、花弁の開花状態によって雌しべの成熟度が異なっていることに気付きました。

育種ストーリー

一般的には、花粉が花の中央にこんもりと盛り上がった頃が交配の適期なのですが、この黄色種の雌しべが十分に成熟している時期はまさに花が終わりかけた時期だったのです。未成熟の雌しべにはまだ受精能力が育っていないから、やみくもに交配をしても受精しないわけです。この発見は、その後のオステオスペルマムの育種において大きな転機となりました。

さらに観察を進めると、雌しべが花弁に隠れる配置になっていることに気付きました。そこで、交配時に雌しべに花粉を付着させやすくするため、花弁を外側に反転させ、雌しべを露出させる方法を試みました。その結果、受精率が上がり、少しずつですが種を収穫できるようになりました。

この作業を数年に渡って繰り返し、自分が追い求めていた形質を持った素材がいくつか生み出され、今のキャンディフィールズにつながる親となっていったのです。

開発へ当たってこだわったこと

菅野さんが抱いた使命感や自己超えの姿勢は、長年にわたる育種の道のりを支える大きな力となりました。当初思い描いていた「花数が多く」「長く咲き」「きれいな花色を持った」オステオスペルマムを作ることは容易ではなかったのですが、強い決意を持ち続け、その信念を貫き通したのです。

長年の間こだわりを持ち続けられた秘訣は何でしょうか。

オステオスペルマムキャンディフィールズとスーパーアリッサム

多くの人が園芸店などで花を選ぶ際、無意識に美しい花色に惹かれていることは多いのではないでしょうか。開発に当たって最も重視した点が花色の美しさ、色艶、そして可愛いらしさを感じられる花であることでした。花にとって色は命と思う育成者にとって、その点だけは妥協できない生命線でもありました。

「これまでと変わり映えのしない花色なら開発を進める意味がない」、それは特に意識したことでした。

オステオスペルマムキャンディフィールズ開発秘話

開発の途中で、オステオスペルマムには花色のバリエーションを増やしていける潜在能力があると感じていました。その潜在能力を最大限に引き出せるよう交配の出発点から過去の組み合わせの履歴を辿り、少しでも思い描いていた理想に近い花色や多花性、開花持続性等の形質に近づけられるような選抜を繰り返してきました。

もう一点重要視した点は、多花性で一斉開花性を併せ持った開花期間の持続性でした。しかしながら、これらすべての特性を兼ね備えた品種を作り出すのは、容易なことではありません。ただひたすら理想の花を追い求め、交配を重ねていくしありません。その長年の努力が、複雑な花色を持ち一斉に咲くキャンディフィールズの誕生に至ったのだと思います。

ガーデナーの皆さんへ

オステオスペルマム キャンディフィールズは長年の開発の末に育成された、これまでにはない新しい花色を持った園芸種です。これらの品種たちがそれぞれの家庭の中にあって庭先やあるいは玄関を飾り、親子でそして家族で、笑顔で談笑する風景を思い浮かべながら、育成しました。

南アフリカの草原

またオステオスペルマムの生まれ故郷である南アフリカの草原で、風にそよぐオステオスペルマムのお花畑の中を、家族が明るく語らいながら軽い足取りで歩いている情景を重ね合わせていました。

それゆえに花がら摘み等のお手入れをしながら、遠い異国への思いを馳せつつ咲き進んでいく花の様子を楽しんでほしいと願っています。

上手に育てるポイント

オステオスペルマムキャンディフィールズ誕生秘話

苗を購入した後は、ひと回り大きな鉢に植えつけましょう。生育に応じて大きめの鉢に順次植え替えていってください。そうすることで、株張りが増していきます。

ひと回りとは、1号サイズになります。詳しくは、鉢のサイズの選び方を参照ください。

茎葉が伸び、花数が少なくなってきたら、草丈の三分の一ほどの高さで切り戻しましょう。すると芽数が増し、その分たくさんの花を咲かせます。

冬越しチャレンジがおすすめ

それぞれのライフワークに沿った楽しみ方があることと思いますが、是非挑戦していただきたいのが冬越しです。冬越しをした2年目の株は、株張り・枝数・花数において各段に素晴らしいパフォーマンスを魅せてくれます。

オステオスペルマム キャンディフィールズが耐えることができる最低温度は、ー5℃です。関東以西の低地であれば、屋外で冬越し可能です。寒くなってくるとだんだん地上部は枯れてきますが、霜よけのために切り戻しはせずそのまま冬越しすることをおすすめします。春(地域によりますが目安として3月上旬~下旬頃)に暖かくなったら株元10㎝程の高さの所で切り戻しをしてあげると、コンパクトに整った草姿にたくさんの花を見事に咲かせてくれます。

まとめ

菅野さんの努力と情熱が実を結び、オステオスペルマム キャンディフィールズという素晴らしい品種が誕生しました。

ただ今回の発表された品種は、始まりにすぎません。開発はさらに進んでおり、これまでのオステオスペルマムにはなかった新しい花色が数多く育成されてきています。

「届けたいのは育つよろこび」

より多くの人々にそれを伝えるべく、花の世界に新たな息吹を与えるために、開発は今まさにこの瞬間も精力的に続いています。

PWとは、植物の国際ブランドPROVEN WINNERSの略称。PW JAPANは、世界中の育種家が生み出す品種から、日本の環境に適した高い基準をクリアした品種のみを厳選しています。だから初心者でも失敗が少なく育てられます。植物選びの安心マーク「PW」が目印です。是非お店やネット上で探してみてください。